先日「腕のふりについて」のトルソ剛性の2)「胴体の浅層の筋肉、筋膜、表皮が張りを保つようにする」と、皮膚についてチラと触れたのですが、実は皮膚というものが人類=直立二足走行動物の運動に大きな関係があるのではないかと思っています。
皮膚自体に対する興味はだいぶ前から持っており、あらかたの論考はチェックしているつもりですが、運動そのものにおける皮膚の役割について言及した論考は「皮膚運動学」の福井勉氏のものを除いて、寡聞にして知りません。
福井氏らの臨床研究により、例えば
1)筋収縮の際に浅筋膜層と浅層筋の間にスライド(滑走)が起こり、この滑走の如何が筋運動に大きな影響を与えること。
2)皮膚の皺のあり方が、上記のスライドや、屈伸等における可動域に大きな影響を与えること
などなどが明らかになっています。
福井氏らの研究は、理学療法の臨床で行われているものですが、スポーツの分野でも、キネシオテープやスパイラルテープの効果にも大きく影響するし、大変示唆に富むものだと思います。
残念ながら、スポーツ科学の分野ではあまり知られていないのではないかという気がします。
皮膚は実に多様な役割を持ているのですか、もうひとつ、福井氏らも言及していないし、あまり知られていない大きな役割を持っているのではないかと思っています。
それは、「重力に抗し、立位を保つ」という役割です。
例えで云うと、氷嚢。
水の入ったゴム袋をイメージしてください。
上から吊る(ないしは内側に骨組みを立てて上に突き伸ばす)と、ぴちょん君、あるいはキスチョコのような水滴形になるはずです。
大気圏内の地上では重力はとても大きな力を持っているので、水の量=水の重さに等しい力で上に引っ張り上げなければなりません。
ゴムが破れると、ぺっちゃんこ。
あるいは少しバランスが崩れたらどうだろうか。骨組みが倒れてやはり潰れてしまいます。
このときに、ゴム袋の周りを円筒形の紙でぐるりと囲うとどうでしょう。特に吊り上げなくても自立することができるのです。
多少動かしても、ぶよんぶよんと元に戻ることでしょう。
以上から、私の、次ぎの仮説が生まれてきます。「人の身体(特に腹部・胴体部)もこれに等しい」のではないか?
「人は、骨と骨格筋、皮膚と筋膜と表層筋との協調により、重力に抗する立位の姿勢を保持している」のでは?
さらに云うと、立位といっても人はただ突っ立っているだけではありません。
歩き、走ることにより進化・最適化した生き物であると言われますし、常にバランスが崩れ、同時に回復する必要があるわけです。
もちろん骨と筋肉による姿勢保持が基本ではああります。
しかし氷嚢を吊っているのと同様に、骨と骨格筋にはとても大きな負荷が掛かっているのです。
筋肉の協調だけでは、常時バランスを崩し、姿勢を保持するためのエネルギーも相当なものになるでしょう。
とても通常の代謝だけでは追いつかないはずです。
多少伸び縮みする皮膚(特に皺)の「形態」や「物質的特性」が、ネットワーク型コンピューティングの役割を果たし、一瞬にしてバランスを復する役を担っているのではないでしょうか。
このような皮膚との協調で、筋運動負荷を下げることにより、速やかで自在、しなやかな、かつ代謝を抑えた効率的な運動性が実現するのではないかと考えています。
と、もっともらしく云っているけど、これは単細胞の生物がすでに行っていることですよね。
高次化、専門分化すると見えなくなってしまうものがありますね。^^